書籍紹介「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」

No.22

書籍紹介「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」

 

今回は書籍紹介である。

私は読書こそが最高の自己啓発であると信じて疑わない

人は文字を発明したことによって記憶だけでなく、記録を後世に伝えることが出来るようになった。

誰の言葉か忘れてしまったが、読書を勧めるのに最適な言葉がある

「すべてを経験するには人生は短すぎる」

 

 

東京オリンピックは延期になってしまったが、今回は陸上競技選手の話である。

ハンマー投げの室伏広治選手の活躍も一昔前の記憶になりつつ有るが、私の中で世界に通じる投擲選手と言えば、室伏広治選手の父でアジアの鉄人と言われた室伏重信氏が印象に強い。

室伏重信と言えば、ハンマー投げでオリンピック代表4回、日本選手権10連覇、アジア大会5連覇、そして息子の室伏広治選手に抜かれるまで日本記録を保持しており「アジアの鉄人」と称された、現在でもその記録は日本2位でありその記録を更新したのは39歳の時である。若いときは相撲が抜群に強く、横綱双葉山から入門を勧められ本人もその気だったのだが、母親の反対により断念したという逸話も有る日本陸上界のレジェンドである。

私は室伏重信氏の選手時代はほとんど知らないのだが、当時の空手雑誌に空手の各流派トップ選手とオリンピック代表選手そして室伏重信氏の体力テストの比較が在り、空手選手はオリンピック選手にも引けを取らないという数値の高さが印象的だったのだが、室伏重信氏だけは別格でダントツの数値を誇っていたところから気になる存在であった。

 

私が今までのオリンピックの中で最も多く見ることが出来たのが1988年のソウルオリンピックである。

その中のやり投げ選手に溝口和洋選手が居た。

投擲選手らしい鍛え抜かれた身体と、見るからに強そうな顔つき。

残念ながらオリンピックでは結果を残せず、いつの間にか陸上界から姿を消していた。 

 

その後、室伏重信氏の息子である室伏広治選手の活躍により日本投擲界は盛り上がりを見せ、アテネオリンピックで金メダルを受賞するという最高のクライマックスを迎えた。

その室伏広治選手が若い時に指導を受け、影響を受けたのが溝口和洋氏であった。

 

現在でもやり投げ日本記録保持者である溝口和洋氏のルポルタージュが表題の

「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」である。

 

 

溝口和洋の伝説

○中学時代は将棋部

○インターハイはアフロで出場

○高校生でやり投げを始めて、インターハイ3位

○ウェイトトレーニングを1日12時間

○ベンチプレスの総重量1日100t

○二日酔いで日本選手権に出場し優勝

○幻の世界新記録を投げたことが有る

○トレーニングは100%ウェイトトレーニング

(トータルのトレーニングは120~140%)

○引退後はパチプロで生計を立てる

○マスコミ嫌いで気に入らない記者を袋叩きにした

○一日タバコは2箱、酒はボトル1本を飲んでいた

 これだけでは済まないが、とにかく破天荒な人物なのだが、やり投げに関する執念とも言える取り組みは凄まじい。

搾取するばかりの陸上界とも断絶状態

実は繊細な人柄

 

 

私はこの本を読んでいて、溝口和洋氏の姿が一人の武道家と重なった。

柔道界の鬼、木村政彦氏である。

 

木村政彦の伝説

○「木村の前に木村無く、木村の後に木村無し」と言われた

○1日10時間以上の練習

○寝ている間は進歩しないので3時間睡眠

○3倍努力が有名だが、通常の練習にプラスして3倍なので実は4倍

○全日本選手権を13年間保持(戦争中未実施期間を含む)

○グレイシー柔術のエリオ・グレイシーに腕絡みで勝利し、「キムラロック」の名を残す

○170cm85kg程度の体格だが、山下泰裕より強かったと言われる

○大木に帯を巻いて1日1000回打ち込みをし、その大木を枯らした

○ベンチプレスの仕上げに腕立て伏せを1000回

○師匠が団扇で扇いでくれというと、畳を持ち上げて扇いだ

○電車の吊り革の丸い輪を握って割ることが出来た

などと数々の伝説が有るが、酒で身を崩し、凄まじい実績にも関わらず講道館からあまり評価されず七段に留まるなど、共通するところも多い。

 

木村政彦氏に関しては、またいつかの機会に取り上げたいと思う。

 

本題に戻る

読んでいて印象的だったのは

とにかくトレーニングが凄まじいということである

1日12時間以上のトレーニング

週1日の休養日といっても完全休養ではない

休みは盆と正月の2日間のみ

トレーンングのセットや超回復の概念などに全く囚われていない。

 

もうひとつは「常識を疑う」ということ

溝口氏が言うには「リラックス」は力が抜けていることではなく、

「力が入っているが、自分では意識していない状態」だという

これは力んでいるというような低レベルの話ではもちろんない

ロッククライミングの際に指でぶら下がっている状態になるが、この時指先に力を入れている意識はないが実際は力が入っている。この状態が真のリラックスだという

 

「後ろ向きに走るのは遅い」と思われているが、本当に遅いのか?

自分で検証した結果のみを信じていた

結果「常識と言われていることはほとんどデタラメだ」

ということが分かったという

 

「自分の考えでそうしていた。誰かがそう言っていたからとか、そんな理由で自分の行動を決めたことは一度もない」

 

そんな溝口和洋氏もハードトレーニングがたたって故障し引退を余儀なくされてしまう

 

87mを投げたのに60mしか投げられなくなってしまう

 

その後トレーニングを見直し、80mを投げることに成功する

 

その過程が指導力の向上に非常に役立ったという

 

引退後は地元和歌山で農業を営んでいるという

 

陸上界とはいまだに軋轢があるというが、東京オリンピックを前に必ずやその強烈な伝説が再びクローズアップされるはずである

 

今回この記事を書こうと思い立ち、調べていたところ、文庫化直前であることを知り発売日に購入した次第であった。

偶然といえばそれまでだが、それもまた必然であったと私は信じる。

 

 

「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」

漢なら必読の書である

 

 

 

 

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